久保田 淳一郎 初段(函南道場)
〜2007年7月29日取得〜

 〜 次の目標に向けて 〜

 高橋先生より初段合格の連絡が入った時、達成感もさることながら稽古の協力をしていただいた方々への感謝の気持ちの方が強く沸いてきた次第です。審査会という努力してきた結果を試す機会を提供してくださる大石主席師範、出稽古の際に的確な指導をしていただきました芹澤事務局長、上級者合宿で指導をしていただいた田原先生、快く出稽古を承知していただきました松田先生、10人組手の相手をしていただいた先輩方、道場生の方々、なによりも日頃指導していただいている高橋先生、このたびは本当にありがとうございました。
 極真空手に入門したきっかけは稽古に通わせていた子供の送り迎えの時間がうまく取れなく、「ついでに一緒にやればいいや。」程度の軽い気持ちでした。年齢的(当時43歳)な事もあり最初は黒帯を目指そうなんて夢にも思いませんでした。しかし直接打撃の組手で全力を出して相手と対戦していると「あ!こいつ相当に凄い。」と相手を素直に認め、相手も自分を認めてくれるという理屈を超えた心の交流が生じる極真空手の素晴らしさが実感され、稽古次第ではまだまだやれるという可能性も見え出し、黒帯を目指そうと決意をして稽古してまいりました。
 今振りかえると昇段審査に合格するまでの間は弱気な自分との戦いでした。「必ず成し遂げる。」と決意した自分の心に「次回に延期しよう…この次でも問題はない…十分稽古積んでから…」と囁く弱気な気持ちを克服する日々が審査当日まで続きました。反面自分自身というものを冷静な第三者の目で見ており、感性が研ぎ澄まされていった時期でした。審査会や試合のような目標がありその一定期間を区切っての稽古であればこそ身についてゆく技術や普段は見落としている自分の長所や欠点のへの気付、気持ちの持ち方ひとつで得られる結果が大きく左右される事などを経験してきました。黒帯を締めるのに必要とされるものがこの間に一気に目の前にあらわれた感じがします。何回も見送りが続きましたがその分より多くの貴重な経験をさせてもらいました。
 10人組手を行うにあたっては三戦の型が非常に役立ちました。息吹の稽古のときに腹筋が硬いゴムのようになっている感覚がありましたので腹筋を鍛えるにはよいのだろう程度の認識しかありませんでしたが、いざ10人組手をやるとなった段階で真っ先に三戦の型が頭に浮かんだことを覚えています。走り込みやミット打ちに以上にやった記憶があり、あまり強くなかった腹筋も1ヶ月もたつころにはかなりの自信がついてきました。今でも一番よく稽古をしますし、最も気持ちをこめて行える型になりました。この型は審査が近づいてくると同時に襲ってくる得体の知れないプレッシャーをはねのけるにも役立ちました。先輩たちの10人組手を見ていて何にもまして腹筋を十分に鍛えておかねばという潜在的な意識が“三戦”という最適な答えを出してくれたのだと思います。しながら10人組手当日は肩にそうとう力が入っておりガチガチの状態で「始め!」の声を聞きました。最初は自分一人の戦いだと思っていたのですが、これは結構きついと感じだした3〜4人目あたりから周りの声援がスパーンと自分の体に入り物凄い気力が湧き上がった事が今でも鮮明に思い起こされます。ここから10人組手というものは周りで見ている人たちに大きな影響を与えていることが感じ取れ、力みが自然となくなり自分の思っている動きの半分も出来ていなかったのですが、ただ目の前の相手に失礼のないよう全力を尽す、応援してくれる次に続く後輩たちのために自分の戦っている姿が少しでも参考になればという素直な気持ちで挑んでいけました。自分というものが消えしまったような感じでした。
 次ぎに控えていた「型」の審査に向けての稽古は非常に厄介でした。稽古中に何度も「何故出来ない?」「どうして?」「どこがいけない?」「自分にはこの動きは出来ないのでは?」自問自答の日々…。型の稽古は怖いもので、「この型はもう出来るから。」とか「この型は飛ばしても差し支えない。」などと自分勝手な判断で偏った型の稽古をしていたら出来ていた動きも出来なくなったことがよくありました。大石主席師範が「空手の稽古は得意なものだけをやっていてはだめだ、すべて満遍なくやらなければ出来る技も出来なくなる。」と言われていることそのものでした。やはりある程度の年数修行をしてきて心のどこかに慢心や思い上がりが気付かない間に芽生えていたようです。こんな簡単な事も審査という目標設定があればこその気付であり、審査の結果が何回も見送りという形で返ってきたのもそんな心の悪いところを徹底して追い出すためのものだったと感謝しています。最初の頃の「何故だろう?」「どうしたらよいのだろう?」と稽古を行うことよりも思い悩む時間が多かったのが、「今度こそ!」という気持ちへの切り替えが出来たことがその表れだったと思います。また10人組手以後多くの時間を型の稽古に費やしてきたおかげで「型」の稽古が組手以上に興味が沸いてきています。今は型の完成度が上がるにつれてどんな身体能力が開発されてゆくのかが大きな楽しみです。
 審査会終了後しばらくしてから大石主席師範より「次は2年後に弐段位を目指せ、すぐに次の目標を掲げたほうがよい。」と声をかけていただきましたが、張り詰めていた気持ちが正直やや緩みだして次の目標も曖昧になり出していた今の自分を鋭く見抜かれた感じがしました。(大石主席師範が日頃言われる「よい指導者とは適切な時に適切な事を」というのはこのことなのでしょう。)入門してくる人達が目標とする黒帯の重さを改めて痛感させられました。
 入門してから「総合的な強さと精神力(筋金入り)が求められるのが極真空手の黒帯、組手は強くて当たり前、それに加えて技や型の完成度も必要、なによりも日常の大事な場面で稽古を通して得たものが生かされなければならない。」と教えられてきましたので自分がその立場にたった今、次の目標である弐段位の取得を目指し、よりいっそうの努力と精進を重ね、自分の得てきた経験を一人でも多くの後に続く者たちに伝え、微力ながら極真空手の普及発展を進めてゆく所存であります。

                                            押忍