極真会館 北海道高橋道場
高橋 幸男 五段

〜2010年3月07日取得〜


 全日本極真連合会の大石代悟最高師範より五段位合格の連絡を頂きました。 皆さまのご協力により何とか最後までやり抜くことができました。 感謝の気持ちでいっぱいであります。
 苦しい時に170人の道場生たちの顔を思い浮かべると、勇気と力がわいて来たのが心に残りました。
 風邪をひいたり仕事や雑事のために時間不足に陥ったり、不十分な稽古で臨んだ昇段審査ではありましたが、 移動の車中でハンドグリップを握ったり、型のイメージトレーニングをしたりといろいろ工夫し、努力した つもりであります。
 ここに公認審査会での50人組手を中心にした簡単な報告と合わせ、皆さまのお役に立つことができると思いますので いろいろな反省点、稽古内容などについて述べておきたいと思います。

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 3月7日(日)、静岡市北部体育館柔道場。午後2時、公認審査会開始。 大石最高師範のリードのもと柔軟体操、基本、移動、型、補強と続いていく。
 初段への挑戦者の10人組手が終わって、いよいよ自分たちの組手に移る。参段への挑戦者2人と共にそれぞれの対戦者と組手に入る。
 序盤からとばすとスタミナが持たないので、相手の技を極力カットしカウンターを取るように心がける。
 20人目くらいまではまずまずであったが、それ以降苦しくなり始めた。セコンドについてくれた石川秀樹先生がタオルで汗をふいてくれ、 水分補給も手伝ってくれる。ガードを上げるように、左の突きを出すようにとアドバイスをくれるが手が思うように動かない。
 30人組手を終えた2人が下がると、自分1人が元立ちで対戦相手を迎える。
夏合宿で行った30人組手の苦しい状況と同じ状況を迎える。後は気合を維持しつつやり抜くしかない。
 40人目を過ぎると手足の動きが鈍くなり相手の攻撃をもらい始める。特にステップが切れない分、ガードの腕が叩かれて腫れ上がり、その上をまた叩かれる。
 50人が終わった時はさすがに辛かったが、全力を尽くした爽快感が残った。大石最高師範をはじめ多くの人たちに祝福され、感謝の気持ちでいっぱいであった。

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 今回の昇段審査の反省点はたくさんあるが、いくつかあげてみたい。 現在私は54歳であり20代の選手クラスとは比較にならないが、壮年部と一般の選手クラスの両方の視点から述べてみたい。
 まず絶対必要なのは基礎体力である。昇段審査の基礎体力テストは拳立て50,スクワット50,腹筋50の5セットであるがそれだけでは足りない。
 まずは下半身から入るが、ステップ、スピードのあるパンチ、蹴りにはジャンプ力が不可欠で縄跳びが効果的である。
 特に若い選手は最低でも1000回は続けて跳ぶこと、できれば2重跳びを500回以上続けて跳べるのが望ましい。
 壮年になると次第にバネが無くなり、トレーニング自体に耐えられなくなるのでふくらはぎの状態に注意し、セット数に分けて限界内に行うと良い。
 肉離れなどの怪我、故障は私にも経験があり、今回も右ふくらはぎの古傷でもある肉離れが完治せず右足をかばい踏み込みができなかった。 (踏み込みが出来なかったのは、下が柔道用の畳で柔らかく、反力を吸収されたのも一因だと思う。床以外での稽古も必要であった。)
 筋肉を故障から守るのにはバーベルなどを使ったパワートレーニングが効果的である。またストレッチと合わせ、疲労した筋肉をマッサージしてほぐして おく事も大切である。マッサージはリンパ節に向けて、おおむね心臓に向けて行うと良い。
 下半身について次に大事なのは太ももの強化で、若い選手クラスはスクワット1000回連続、(ひざを壊さないためには、太腿が床と平行になるまで落とし、 かかとの下に3〜4センチくらいの板等をかませると良い)を20分〜15分程度では出来なければならないが、年をとると筋肉の耐性が落ちて来るので少ない 回数でセット数に分けるなどして、年齢に応じて負荷を変えて少しずつ回数をこなせるようにする。
 太ももの筋力が向上すれば蹴りの強さが増すと同時に、ローキックを受けた時のダメージも小さくて済む。
 足の強化には走り込み、ダッシュ、階段の昇り降り、兎跳び、ジャンピングスクワット等も効果的である。
 それに蹴り足の引きのスピードアップのために、ゴムチューブや筋肉トレーニング器具を使ってのハムストリング(太ももの裏側の筋肉)の強化も忘れてはならない。
 今回の審査に向けての稽古で悔やまれるのは、怪我、故障によって稽古自体に支障をきたしてしまった事だが、やはり予防、ケアへの配慮が足りなかったと思う。
次に上半身についてであるが、ひざを立てて上体起こし等の腹筋運動(ひざを立てて行うと腰への負担が軽くなる)を回数多く行う事、これは腰痛予防にもなる。
 現役時代には、足を掛けての上体起こしの腹筋運動を500回連続でこなしていた。背筋については主に腹這いになっての上体反らしやゴムチューブを使った稽古を行った。
 腕、大胸筋の強化には拳立てが良いが、注意する点は胸が床に近づくまで下げ腕が伸びきるまで上げる事である。
 他に現役時代、15キロ程度のバーベルをベンチプレスで連続500回程度上げるようにしていたが、今回は拳立てを重視していたため、ほとんど行わなかった。
 それがパンチの出なかった原因の一つだと思う。(この種の稽古は、個人差があるので何とも言えない。軽いバーベルを回数多く上げると筋肉が硬くなるという説がある。)
 他に懸垂、引き、逆腕立て伏せ、握力の強化、指立て、逆立ちも必要である。
 いずれにしても気を付ける事は故障を引き起こす程の無理をせず、故障が起きてしまった場合は治療やケアをすることも含め、その箇所に決して負荷をかけないように注意して稽古を続ける事である。
 スタミナについてだが、私の場合、選手クラスとのスパーリングが主で、1分×10〜40セット、慣れてくると強い相手と10分以上連続し数人分こなす。
 また自分より実力の劣る相手の場合でも、ダメージを与えない様に気をつけながら全力で動き切る事を心がける。
 疲労困憊しスタミナが切れて、いつもなら勝てると思う相手に押し込まれたとしても気にしない事、要は自分自身との闘いであり本番こそが勝負なのである。
 その他に大事な稽古はビデオを使っての一人稽古(サンドバッグ、シャドーが中心)で、コンビネーション、受け返し等自分の動きをチェックし、繰り返し修正しながらスピードと 切れ味を重視し徹底的に追い込む。
 指導者になるとどうしても受けが多くなり、消極的になって技の切れ味が鈍る傾向がある。今回もその点を一人稽古の時にビデオを使うなどして修正しなければならないのに それを忘れていたのが悔やまれる。
 また空突き、空蹴りの連続も動きが偏らない様にする大事なメニューである。
 空手は基本的には素手、素足で行うものなので部位鍛錬も怠ってはならない。
 正拳部、背足はもちろんの事、突き蹴りをブロックする正拳からひじにかけて、足はつま先からひざまでを徹底的に鍛えておかなくてはならない。
 部位鍛錬には普通市販されている砂袋を用いるが、砂袋の他に皮が柔らかめの立木を叩いたり、片手で持ちやすい程度の瓶に布などを巻き付けたものに ガムテープを巻いた物で脛などを叩いたりもしていた。
 突き蹴りをブロックした腕が腫れ上がってしまったが、鍛え方が足りなかったと反省している。またボディー強化のために腹や胸、足を叩くこともした。 これをやっておくと打撃を受けてもあまり痛くないし、体が反応し技を返せるようになるようだ。
 稽古前の準備体操はもちろんであるが、稽古後のクールダウンと整理体操も怪我の防止や疲労回復、しなやかで強い筋肉を造るためにも重要である。
 次に栄養についてだが、動物性脂肪はなるべく避け、殻類、魚介類、野菜を多く取ることを心がけ、くだものは制限する必要は無いと思うが、糖分は 稽古前や稽古の合間に水分補給と兼ねてとる事がある程度で、なるべく取らないよう気を付ける。
 とくにペットボトル入りの糖分の多い飲料はスタミナ切れの原因にもなるし、食前には胃腸の働きを弱めるので避けた方が良い。まして稽古後に飲むなど害にしかならないと思う。
 ただ例外として、あまりにハードな稽古のために脱水症状に陥った場合は、その種の飲料を多量に飲むことで回復することもあるので覚えておくと良い。 またアルコールの多量な摂取も脱水症の原因になるので気をつけたい。
 疲労回復についてはやはり適度な休養、睡眠が必要である。 私は不眠症の傾向があるので厄介な問題である。実は当日も別に緊張しているわけでもないと思うのだがほとんど眠れなかった。別に影響はなかったと思うが。
 補足として心の持ちようについて少し触れておくが、重要なのは少々高い目標であっても必ずできると信じて稽古に励む事である。
 腕の筋肉一つを例にあげても、鏡に映る自分の筋肉を見ながらであるとか、しっかりとしたそうなりたいイメージをもって行うのとそうでないのとでは筋力、 筋肉の付き方に大きな差が出てくる。
 要は日々、明確なビジョンを持ち、己に打ち克つ心をもって挑戦的に稽古を続け、一歩ずつ前進していくことである。
 以上、大まかに今回の昇段組手の経験から学んだことや稽古内容等について述べてみたが、詳細などについてはまた別の機会に譲りたいと思う。

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 これからも一道場生として皆さんと共に極真の道を歩んで行きたいと思います。
 最後に昇段審査に当たり協力して下さいました関係者の方々、道場生の皆様に重ねて感謝申し上げます。
 私の経験が少しでも皆さまのお役に立つことができれば幸いです。

押 忍



左から 高橋師範・大石代悟最高師範